この記事は、SDGsビジネスをこれから始めようとする方が、過去の失敗事例を通じて少しでも成功に近づけることのできるヒントになるよう書かれた記事です。
SDGsと言っても範囲が非常に広いですが、SDGsを広報やCSRとしてではなく事業として取組もうとしている方、特に社会課題をビジネスを通じて解決しようとしている人向きです。
2015年にSDGsが出来てから、最近では日本でも認知が広がってきました。そして今まで様々な起業が取り組み、成功・失敗事例などが積み重なってきています。
ここでは、筆者の今までの経験や調査の中で、失敗する事例の共通点、成功する事例の共通点をご紹介します。また最後に、その共通点を実行して成功している事例もご紹介いたします。
それでは、まずは失敗する事業の共通点です。
- SDGsに取組むことが目的となっている
- 売上があがらない
そして成功する事業の共通点です。
- 解決したい社会課題、達成したい目標を明確にする
- 売上を持続的にあげる仕組みを考える
- マーケティング調査を行う
- 商品、価格を魅力的にする
これって当たり前じゃない?と思われた方もいると思います。SDGs事業ならではの要因も絡んできますので、これから詳しくご紹介します。
SDGsビジネスで失敗する理由
SDGsに取組むことが目的となっている
これは、「上司にSDGsに関する事業をやれと指示された」とか「最近SDGsが流行っているので、何か絡めて事業をしよう」のようなことがきっかけで事業を始めたケースです。
何か目標を達成するとか、社会課題を解決することが起点ではありませんので、自社が既に持っている、または少しアレンジしたものをSDGsと結び付けて販売している場合は上手くいかないことが多いようです。
SDGsウォッシュという言葉をご存じでしょうか?
SDGsウォッシュとは、実態が伴わないのにSDGsに取り組んでいるように見せかけることを指す言葉です。
例えば、環境に優しい商品でSDGsを絡めて販売している一方、別の事業では環境破壊につがる事業をやっていたり、何等か矛盾が生じている企業があります。
消費者も企業が本当にSDGsに取組んでいるかどうかぐらい見抜けます。そのような企業は「偽善的」と映ってしまい逆にマイナスのイメージを与えるケースもあります。
SDGsをイメージアップの一つの戦略、だけと捉えている会社の事業は失敗してしまうケースが多いようです。
売上があがらない
売上があがらないから失敗するのは当たり前と思われるかもしれませんが、SDGsならではの要因もあります。
その前に、まず一般的に失敗する原因を考えていきます。
〇一般的な失敗
株式会社YKプランニングが行った2022年の調査では、直近10年以内に倒産経験がある経営者(元経営者)を対象に、「企業の倒産理由や原因」に関する調査を行いました。
その一位は「販売・客足の低下」で約50%です。コロナによる影響もあるかと思いますが、こちらのアンケートでは46%がコロナ前に倒産しているので、コロナばかりが原因ではないと考えられます。
〇SDGsならでは
SDGsビジネスと他のビジネスが違う点は、「社会課題を持っている人」と「消費者」が違う、または距離があるという点です。
一般的なビジネスは、消費者の悩みや課題を解決してくれる、または消費者の満足度が高まる商品やサービスを開発し、それを販売しています。つまり悩んでいる人は消費者でお金を払う人も消費者で一致しています。
しかし、SDGsの場合だと、違うケースの方が多いのです。
例えば、本来は破棄されていたものを有効活用するビジネスが最近は増えてきています。
食の分野では、規格外の野菜や果物などのアップサイクルを促進し、食品ロスと廃棄物削減を目指したり、廃棄されるタイヤのチューブを活用したバックの作成と販売など様々です。
食品ロスや環境問題を自分事として考え、実際に行動している消費者は増えてはいますが、まだまだ距離がある消費者が多いのが現状です。
こちら ↓ の記事では、SDGsのビジネスモデルを8つに分類しています。
8つのうち、課題を持っている人と消費する人が一致しているのは2つだけです。
本来捨てられるものを再利用する場合は、通常よりコストがかかってしまい、どうしても販売価格があがってしまいます。その価格に見合った価値を提供できれば良いのですが、それが出来ないと価格競争に負けて売上があがりません。
他のモデルの事例でいうと、日本でも5人に1人は子供が貧困状態にあると言われていますが、そのような貧困家庭にサービスを提供したとしても、直接家庭から支払ってもらうことは困難です。そのため別の形で売上をあげる必要があり、ビジネスの難易度が高くなるのです。
このようにSDGsビジネスでは、課題を抱えている人と消費者が違うケースが多いため、それこそ「持続的に」売り上げを確保するのが難しい、というのが失敗してしまう要因となります。
SDGsビジネスで成功するポイント
それではどのようなポイントをおさえたら成功するのかについてです。簡単に言ってしまうと失敗ポイントの逆を実行する、ということです。
解決したい社会課題、達成したい目標を明確にする
まず質問ですが、会社であればミッションやビジョン、個人であればビジネスを通じてご自身が実現したいことがあると思います。それはSDGsの考えと一致していますか??
それが明確に「Yes」であればSDGsビジネスを始めた方が良いと思います。
答えが「No」であれば、ご自身の事業にSDGsというワードは使用しない方が良いです。先ほどお伝えしたように消費者も賢いですので、すぐ「これはSDGsではない」と見破られてしまうからです。
分からないという方ですが、まず分かるまで検討した上でビジネスを始めた方が良いかと思います。
ではどのように検討すれば良いのでしょうか?基本的な情報はオンラインで調べられますので、出来ることはインターネットやSNSを活用してみて下さい。
おススメの方法は、何等か自分の事業に関わりそうな現場に行くことです。
ネットで見た情報や他人から聞いたことより、自分で体験した方がよっぽど良い情報を得ることができます。現場に行かないと分からないこともありますので、悩んでいる方は自分のフィールドになりそうなところ、課題を抱えている人に会いにいくなど、何等かアクションを起こしてみて下さい。そこから新しい発見が生まれると思います。また、新しい発見が無い、というのも発見です。自分の現在の考えや情報から、「Yes」か「No」どちらかを考えてみて下さい。
自分自身で府に落ちた上で「Yes」であることが成功の最初のステップです。
売上を持続的にあげる仕組みを考える
先ほどもお伝えしましたが、SDGsを達成したり、社会課題を解決しようと思うと、その課題を持っている人から直接お金をもらうことが出来ないケースが多いです。従って、別の接点から利益を得る必要があります。
例えば、購入によって寄付をするモデルです。
こちらの図では、オレンジ色の矢印がお金の流れになっています。
CMでも放映されていた時期がありますが、ペットボトルの水を買うと植林を行う団体に寄付をする、のような事例です。環境問題に取り組む団体に寄付することで社会貢献するにはお金が必要です。そのために商品価格の1~5%程度の金額を財源として、ペットボトルの飲料水を販売しています。その寄付金は追加のコストになる訳ですが、それは企業が負担したり製造コストを下げたりする場合もありますが、販売価格に上乗せするケースもあります。
企業は自社のペットボトルの水を買ったら一部を寄付しますというキャンペーンをすると、環境意識の高い消費者は購入し売上があがるかもしれません。しかし、その寄付だけを売りにしているとリピートされないことがあります。
皆さんはコンビニで飲料水を買うときに何を基準にしますか?結局、自分の好みの味だったり、昔から飲んでいるから、とか価格ではないでしょうか?
ふるさと納税をやられた方もいると思いますが、ふるさと納税も地域の特産品を買うことでその地域の支援に使われたりするので、似たモデルです。
例えば、ふるさと納税で牛肉を買われる際に何を基準にして購入されますか?自分の故郷の牛肉を買ってふるさとを支援するのが元々のコンセプトですが、聞いたことのあるブランドだったり、同じ金額でグラム数や品数が多い商品を購入していませんか?
つまり、「社会にいいことしているよ」という特徴だけだと、消費者は1回目は購入してくれるかもしれませんが、2回目以降は買わない可能性があります。そして「社会にいいことしているよ」という商品同士で比較される場合もあるので、それ以外の差別化が必要、ということです。
ここが無いと消費者の購買につながらず売上が持続的に確保できません。
マーケティング調査を行う
それでは差別化を行い売上をあげ続ける仕組みにするにはどうすれば良いかですが、それはまずはマーケティング調査を行いましょう。この調査を踏まえてどのような商品・サービスにするのか、売り方をどうするのかの検討をしていきます。
〇市場・ニーズ調査を行う
ビジネスを始める時に、「これは良いサービスだ!」と思って始めようとしますが、「本当に良いサービスか?」「誰にとって良いサービスか?」を検討しましょう。
良くある失敗が、自分が売りたい商品・サービスを売ってしまうことです。
SDGsビジネスを本気でやっている方は、視点が広く、社会や世の中全体、または将来を見越してビジネスを考えている方が多いです。そんな想いが強ければ強いほど、「これは世の中に役に立つから絶対広めたい」と思って市場調査やニーズ調査をおろそかにしがちです。
想いは理解できますので、それを「誰にとって」「どのように」販売していくかが大事になってきます。消費者はどのような悩み、ニーズを持っているのか、様々な視点から検討してみることが必要です。
また、ネットでも様々な情報が取れますが、実際にターゲットになりそうな人にアンケートを取ったり、話をじっくり聞いてみると新しい発見や別のアイデアが浮かんでくるでしょう。
〇競合調査を行う
自分のサービスの「ここ」が良いと思ってビジネスを始めた時、すでに他社が同じ「ここ」売りにして販売していたらどうなるでしょうか?
先にビジネスを始めている他社の方が販売実績もあり、その会社を超えて売上を伸ばすことは難しいでしょう。
だたい自分で「これが良い!」と思ったアイデアは、他の人も考えていたりするものです。少しネットで調べてみればそれが確認できるのでやってみて下さい。
〇自分の強みを考える
消費者に商品やサービスを買ってもらうには、他との違いが必要です。その違いを生み出すのは自分(自社)の強みです。
個人でサービスを提供する場合、ご自身の強みTOP3を考えてみて下さい。
良く言われることですが、100人に1人のスキルが3つあれば、100,000人に1人の存在になり得ます。スキルや性格的なことだけでなく、資格だったり、〇〇の経験が〇年以上などの知識や経験なども検討してみて下さい。
なかなかできない人は、友人や会社の同僚に自分の強みを聞いてみて下さい(ちょっと恥ずかしいですが)。自分では気づかなかった強みが見つかるかもしれません。
また商品の場合であれば、他の競合他社が持っていない強みを入れて商品開発してみて下さい。その際に既に調べてある消費者のニーズを踏まえたら良い商品になるのではないでしょうか。
上記のようなマーケティング調査を通じて消費者があなたの商品やサービスを購入する理由を検討していきます。具体的な調査手法はこちら ↓ に解説しています。ホームページ作成と関連付けていますが、内容は具体的な調査方法です。
商品、価格を魅力的にする
今までお話した内容で検討していきながら、魅力的な商品やサービスが検討できたとして、最も難しいのは価格設定です。
ビジネス面だけでいうと、価格を高く設定し、それに見合った付加価値を付けることが王道です。しかし、より多くの人に自分の商品・サービスを使ってもらうことで目標の達成や社会課題解決に近づくケースもあるでしょう。その場合、価格を下げることが手っ取り早い手段の一つになります。
従って、価格の場合は個別ケースにはなってしまいますが、SDGsでビジネスを行う場合、価格については下記の情報を知って頂きたいと思っています。
NTTコムリサーチがSDGsと消費に関するリサーチを行いました。
SDGsを意識した消費における価格の増加についてどこまで負担できるのかという調査も行われており、「食料品全般」「日用品」「衣料品」「電力」の4つの購入品目について調査したところ、すべての品目において「通常商品より3割増」との回答が最も多く、次いで「通常商品より5割増」となりました。下の図は食料品全般に関する結果ですが、18歳~25歳の世代が最も価格についての許容度が高いことが分かります。
最近は「サステナブル」をキーワードに、アパレルでも「サステナブルな」素材を使ってこの服は作られています、などPRを行う企業が増えてきました。しかし、この持続可能な原材料で商品を制作しようとすると、どうしても価格が高騰してしまいます。この調査では3割以内の増加価格であれば購入する人が世代別で3~5割となっています。
これを高いとみるか、低いとみるかです。以前よりSDGsが購買に対する影響は大きくなっていますが、まだまだ低いというのが筆者の意見です。SDGsを一つの特徴とするだけでなく、きちんとマーケティング調査を行い、SDGs以外の別の特徴を消費者に知ってもらって、購入してもらう方が現実的ではないかと思います。
といっても言うは易しで、実行することは難しいと思います。弊社では無料相談もやっていますのでお気軽にご連絡下さい。SDGs関連の事業に10年以上携わったスタッフが対応いたします。
SDGs成功事例:ビジネスレザーファクトリー
マーケティングを徹底的に実施して成功している事例として、ビジネスレザーファクトリーがあります。筆者が実際にビジネスレザーファクトリーのスタッフから聞いた話も含めてご紹介します。
“「世界中の働くを楽しく」を実現し、貧困のない社会を共創する“をビジョンとして掲げ、解決したい社会課題は、バングラデシュの都市部における貧困層の雇用問題です。
バングラデシュの現地資源を活用した高付加価値商品(ビジネスパーソン向きの革製品)を製造する自社工場で、貧困層を直接雇用し、日本の自社ブランドで販売することでその課題を解決しようとしている会社です。
バングラデシュの工場では、教育を受けていなかったり、障害を持っていたりと様々な人を雇用しており、貧困層でも働くことが出来るような環境や人材育成を行っています。革製品一つ作るにも様々な工程があり、現地の人でも働けるように作業を細分化したり、車椅子でも働ける環境を作ったりすることで、多様なバックグラウンドを持った人を雇用出来ているのです。2014年は53人の雇用でしたが、コロナの影響があったものの、2022年は676人を雇用する見込みのようです。
貧困削減の対応としてこちらが良くメディアにも取り上げられているのですが、成功している理由としてもう一つ大事なポイントが、バングラデシュで制作した商品が日本で売れているということです。676人を雇用する訳ですから、その分を日本で一定の規模を販売できなければそれだけの人数を雇えることはできません。
ビジネスレザーファクトリー以外にも、バングラデシュのような開発途上国で製品を作って日本で販売するという企業やNPOは多数存在します。しかし、ほとんどが売上が小規模で留まっているか、やめてしまっています。その理由は日本で売上をあげられないからです。
ビジネスレザーファクトリーは事業を始めるにあたって、緻密なマーケティング調査を行ったそうです。革製品といえば競合だらけの分野で、多数の大手企業も参入しています。その中でマーケティング調査を行った結果、「20-40代のビジネスパーソン」をターゲットに、高級感のある店舗や接客なのに革製品は手ごろな価格(決して安い訳ではない)で提供するというコンセプトで事業を展開しています。
革製品の市場でビジネスパーソンに特化した会社はなかったようで、そのニッチな市場を狙ったこともあり、成功につながったようです。
また、日本で販売する場合は商品の質が重要になってきますので、スタッフが老舗の革製品を作っている会社にしばらく修行し、高い技術を取得しています。その技術をバングラデシュで展開しているため、質も高く、価格はお手頃でビジネスパーソンのニーズを満たす商品が出来ています。筆者も購入したことがありますが、リピートして購入している商品もあるぐらい良い製品が多いです。
そして、彼らは「バングラデシュ人の雇用人数」を自分たちの事業の成果の指標としています。その指標で目標を立て、結果を振り返り、次の事業展開につなげています。
冒頭にお伝えした、成功する事業の共通点はこちらでした。
- 解決したい社会課題、達成したい目標を明確にする
- 売上を持続的にあげる仕組みを考える
- マーケティング調査を行う
- 商品、価格を魅力的にする
ビジネスレザーファクトリーは全てこちらの共通点を実施しています。
これまでSDGsの成功のポイントをお伝えしてきましたが、正直、SDGsビジネスは普通のビジネスよりやることが多かったり、ハードルが高いと思っています。成功するにはよっぽどの覚悟が必要だとも感じます。従って、SDGsをやることが目的になってしまうと失敗してしいますし、緻密なマーケティング調査なども必要になってきます。
ですが、SDGsビジネスはやる価値がある領域だとも思っていますので、この記事が少しでも皆様のお役に立てたらと考えています。