SDGsという言葉が世間で言われだすようになり、多くの企業がSDGsへの取り組みを開始しています。しかし、新しい取り組みということもあり、どのようにして自分の会社でSDGsに取組んだら良いか分からない方も多いのではないでしょうか。
SDGsビジネスの始め方が分からないという方のために、この記事では、100社以上のSDGsに関するビジネスを分析し、8つのビジネスモデルとしてまとめています。そのビジネスモデルを見ながら、自社のビジネスと照らし合わせることで、今後SDGsについてどのように取り組むかについてヒントになればと思っています。
ビジネスモデルを検討することも重要ですが、SDGsビジネスを始める前に大事なポイントは下記の3点になります。
- SDGsビジネスを通じて解決したい社会課題、もしくは実現したい社会が明確になっていることが最低条件です
- そして、それを定量的に評価できる指標を持つことが大事です
- ビジネスとして持続性・事業性を担保するために、利益を上げる仕組みを作る必要があります
詳細は下の記事で詳しくご説明しますが、SDGsを会社の広報として取り組むのでなく、事業として取り組む方向けの内容になっています。
また、ビジネスを行うにはターゲティングが重要になってきますが、SDGsに関する市場規模や購買行動にどう影響しているのかについても確認していきます。
筆者はSDGsという言葉が出る前から、社会課題をビジネスを通じて解決するような事業開発を10年以上行っており、成功や失敗も含めて様々な事例を経験しています。そのような視点から、SDGsビジネスに取り組む際のポイントや、取り組む切り口についてご紹介していきます。
SDGsとは?
まずはSDGsについて簡単にご紹介します。外務省によると、このように説明されています。
持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された,2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。
17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。
SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,日本としても積極的に取り組んでいます。
学校の教科書にSDGsについて記載されていることもあり、SDGsについて内容まで理解しているのは10代が最も高く、SDGsのSはSustainableなので、若い世代では「サステナ」と略して使われています。最近はSDGsをコンセプトとしたTV番組も放送されていることもあり、その認知や理解も広がっています。
SDGsへの関心は、消費者の購買に影響が出始めている
ビジネスを始める上ではどの程度の市場規模か、ということも把握しておく必要があります。
また、SDGsの視点でビジネスを始める方の多くは、通常よりコストがかかってしまい価格が高くなる傾向にあります。SDGsに取組んで提供している自社の商品・サービスがいくら良くても購入してもらわないと意味がありませんので、消費者がどの程度の価格までだと購入するのか、についてもご紹介します。
SDGsビジネスの市場規模
電通がSDGsの意識調査について毎年実施しており、ここでは2022年のデータをご紹介します。
まず、SDGsの認知率について調べた結果が下記となります。調査を開始した2018年はわずか14.8%だったのが、2022年1月時点では、86%と6倍近くの認知度になっています。
SDGsの「内容まで理解している」のは2022年1月では全体では34.2%とこちらも1年前より13.7%と増加しており、世代では10代が52.5%と圧倒的に高い理解度となっています。
SDGsを認知している人の中で、「自分も何かしたいと思った」「もっと知りたいと思った」「人に伝えたいと思った」と回答した、実践意欲が高い層は36.9%となっています。
また、「大事なことだと思った」「共感した」「課題を身近に感じた」「よく理解できた」と回答した理解・共感のみに留まる層については、39.3%となりました。
SDGsに関する商品やサービスに興味を持つようになったきっかけを示したのが下のデータになります。
実践意欲が高い層については、「環境問題に危機感を持ったから」が最も高く、「食品ロスに危機感をもったから」「社会問題に危機感をもったから」「もともと社会や地球環境に貢献したいとおもっていたから」と続きます。特に環境問題がきっかけとなるケースが多いようです。
それではこれから、上記のデータを用いて市場規模を試算したいと思います。
まず、総務省統計局が公表している人口の実績値は下記になります。上記の調査結果は10代~70代を対象としていたので、世代別の人口を合計します。
10代~70代の人口の合計 103,879,000人
電通の調査結果より、SDGsに関して実践意欲が高い層の割合は下記でした。
実践意欲が高い層 36.9%
従って、SDGsの実践意欲が高い10~70代の人口は下記になります。
103,879,000人 × 36.9% = 38,331,351人
ここで、社会課題全般について関心を持っている層の市場規模を試算します。
先ほどの、SDGsに関する商品やサービスに興味を持つようになったきっかけの結果から、SDGsの実践意欲が高い人の中で、「社会問題に危機感をもったから」という回答者がその市場規模に該当することとします。
社会問題に危機感をもったから 26.6%
従って、社会課題全般について関心を持っている層の市場規模は下記になります。
38,331,351人 × 26.6% = 10,196,139人
約1,000万人が市場規模となる計算です。環境問題に危機感がある層は52.5%だったので、約2倍の2,000万人と試算できます。
これはかなり大きな市場であることは間違いないので、いかにこの層に向けて商品・サービスを設計していくかが大事なポイントになります。
SDGsを意識した消費経験は約3割、価格負担は3割増までが限度
環境に優しいオーガニックコットンを使用した場合、通常のコットンで生産するよりコストがかかることが多いです。そのため、オーガニックコットンで出来た洋服は通常より価格帯として高くなるケースが見られます。
このようにSDGsでは、何らか社会課題を解決しようとすることで通常のビジネスに比べてコストがかかり、商品やサービスの価格にそのコストを転嫁するため、通常の価格より高くなる傾向にあります。
そこで、消費者が商品・サービスを購入する際にどの程度SDGsの要素を考慮するのか、SDGsによって価格が高くなる場合、どの程度まで許容できるのかを知ることはビジネスを進める上で非常に重要です。
NTTコムリサーチがSDGsと消費に関するリサーチを行いました。
実際にSDGsを意識した消費の経験があるのかという質問には、下の図のように「とてもそう思う」「ややそう思う」という回答が27.3%となった。男女差がかなりある回答となっており、男性では21.4%、女性では34.2%と10ポイント以上の差が見られました。
また、SDGs消費における価格の増加についてどこまで負担できるのかという調査も行われており、「食料品全般」「日用品」「衣料品」「電力」の4つの購入品目について調査したところ、すべての品目において「通常商品より3割増」との回答が最も多く、次いで「通常商品より5割増」となりました。
下の図は食料品全般に関する結果ですが、18歳~25歳の世代が最も価格についての許容度が高いことが分かります。
このように、まだまだSDGsに関係している、世の中のためになっているからすぐに購入する訳ではない状況です。
しかし、下の図のように、SDGsを意識した活動はよりより未来を構築するために不可欠か?という質問には、「とてもそう思う」「ややそう思う」と回答した割合が全体の約半数を占めました。
SDGsに関する商品・サービスについては、まだまだ消費につながっていない部分はありますが、SDDsに関する認知や理解する人も年々増えており、これからますます重要な顧客視点になるのではないかと思います。
SDGsビジネスの始め方、取り組むヒントとなる8つのビジネスモデル
ここまでで、SDGsビジネスに関する市場規模や消費者の意識をみてきましたが、ここから自社のSDGsビジネス検討の切り口になるよう、8つのビジネスモデルをご紹介いたします。
このビジネスモデルは筆者が100社以上の企業の取り組みについて調査した結果を整理したものです。青で囲った内容が、解決したい社会課題を、黄色で囲った内容は企業の取り組みを表しています。また、お金の流れを示したものがオレンジ色の矢印となります。
本来は破棄されていたものを有効活用したモデル
まず最初に、本来は捨てられていたものを有効活用したモデルです。
従来破棄されていたものに付加価値を付けたり、全く違う商品にしたり、価格を抑えることで消費者から利益を得ながら、環境問題や食品ロスの問題に寄与しているビジネスです。
最近では、このモデルのことはサーキュラーエコノミー(循環型経済)と呼ばれ、これまで経済活動のなかで廃棄されていた製品や原材料などを「資源」と考え、リサイクル・再利用などで活用し、資源を循環させる、新しい経済システムとなります。このモデルには3パーンの種類があります。
1.原材料
捨てられるものを商品の原材料として使用するモデルです。食の分野における未利用資源(規格外の野菜や果物・皮・殻・粕・滓など)のアップサイクルを促進することで食品ロスと廃棄物削減を目指すサステナブル・キッチン。
廃棄されるタイヤのチューブを活用したビジネスバッグや靴、小物など、さまざまな廃材から製品を生み出すブランドを展開している首都高速道路株式会社。
海洋ごみからアップサイクルされた再生ポリエステル素材を使用したアパレルブランドであるマリブシャツ、などが事例です。
2.同じ商品
こちらは普段いらなくなったものを安く買い取り、その商品を中古品として消費者が購入するモデルです。ブックオフなどの店舗型もあれば、メルカリやジモティーなど売りたい人と買いたい人をつなげるビジネスもあります。
3.シェア
使われない洋服を回収し、状態の良いものをシェアするビジネスを展開している、エアークローゼットなどがこのモデルにあたります。これは単に中古個品として売るのではなく、シェアするという形をとっています。また、単にシェアするだけではなく、消費者にあったスタリングを提案するという付加価値を付けているのも特徴です。
社会課題そのものを活用したモデル
次に、社会課題そのものを活用したモデルです。
社会課題によってビジネスの内容は違いますが、コミュニティ作りや技術開発がキーワードとなっています。
都市部に住んでいる方は想像できないかもしれませんが、イノシシの数が増加し、農作物を荒らしたり人身被害、車両との衝突などイノシシが住民の日常生活を脅かす存在になっている地域があります。
熊本では、捕獲者の高齢化もあいまって被害が拡大していく中で、25歳~40歳の若い農家で農家ハンターを組織し、ICTを活用してイノシシ捕獲にかかる労力を減らしたり、捕獲したイノシシ肉をジビエとして販売したりしています。イノシシという社会課題を通じて地域で若手のコミュニティを作り対応しているケースです。
また、多くの日本の食卓でも食べられるタケノコですが、タケノコの輸入増加、建築資材などで使用されていた国産竹材の需要低下、高齢化などで竹林管理者が減少しているなどの理由から、竹林の整備がなされていません。繁殖力が強い竹は、既存の植生を破壊してしまう、根の張り方が浅いことから崖崩れが起きやすくなるなど、多くの竹害を発生させています。
そこで多大な被害を及ぼしている竹を「美味しく食べて竹林整備」しようと、様々な技術開発を行い、竹パウダーや竹炭、メンマなどの商品開発、販売を行っている取り組みが各地で行われています。
製品・サービスの原材料見直しモデル
4つ目は良く知られているケースですが、環境問題で多く取り上げられているプラスチックを削減し環境に優しいビジネスを展開しているというモデルです。
スターバックスでもプラスチック製のストローは使わないなどサービス面での事業展開もありますし、商品の原材料にプラスチックを使わない、再生可能な原材料を使用する企業も増えています。また、バイオマスという、「動植物から生まれた、再利用可能な有機性の資源(石油などの化石燃料を除く)」を使って持続可能な資源として活用されています。
購入による寄付モデル
こちらは消費者にとっては気軽に始められるSDGsの取り組みの一つです。普段使っているような商品を購入すると、関連団体や事業に寄付するというものです。
ペットボトルの水を買うと植林を行う団体に寄付が出来る、などはCMでも流れていたのでご存じの方もいるかもしれません。ARTIDA OUD ではアクセサリーを購入すると、「医療支援」「途上国支援」「森林保全」の中から寄付先を自分で選択出来る仕組みを取っています。
TABLE FOR TWOでは、肥満や生活習慣病予防のためにカロリーを抑えた定食や食品をご購入すると、 1食につき20円の寄付金が、開発途上国の子どもの学校給食になるなどのサービスもあります。
プラットフォームモデル
7つ目は、課題を持っている人たちと消費者をつなぐプラットフォームを提供しているモデルです。ただプラットフォームを作るだけでなく、広報や集客、課題を持っている人たちへの人材育成もしているところもあります。
農家の方は自分の農作物を自分で販売する経験や知識が少ない方が多く、有機農産物を生産したとしても販路開拓が難しい状況でした。そこでタベモノガタリは小規模有機農家と消費者をマッチングさせるプラットフォームを作り、有機農産物を消費者へ販売するとともに、農家の方へのアドバイス等も行っています。
SDGsビジネスを取り組む上での大事なポイント
これまで筆者の知るビジネスを8つに整理してみました。自分は環境問題に取り組みたいから1番目や4番目を切り口に考えようなど課題の内容から入っても良いですし、ご自身で実施しようと思っているビジネスモデルに似ているところから考えていっても良いと思います。
また、SDGsビジネスを始める前に下記の3点が非常に重要になってきますので、こちらの点をよく検討の上、ビジネスを始めて頂けたらと思っています。
SDGsビジネスを通じて解決したい社会課題、もしくは実現したい社会が明確になっている
そんなこと当たり前と思っている方も多いと思いますが、最近流行りだからというきっかけでSDGsをやろうとしている企業も増えているのも現状です。ただ、形だけSDGsをやっていると消費者から「偽善的」と見抜かれているケースを良く聞きます。
また、企業内で解決したい社会課題や実現したい社会について共通認識を持つことも大事です。経営者と担当者で意識のずれがあれば、ビジネスを設計していく段階で様々な齟齬が生じてしまいます。会社で取り組む場合には、全社的に意識を共有することがベストですが、最低限、経営者と担当者、関連部署ぐらいは共通認識を持っておいた方がうまく進むのではないかと思います。
定量的に評価できる指標を持つことが大事
これはSDGsに限らずですが、商品やサービスを開発する際にどうしても自社の都合や想いで開発しがちで、ユーザー視点を忘れてしまうことがあります。
そこで大事なのが、自分たちが解決した課題、実現したい社会について何か定量目標を持つことが大事です。今の取り組みで定量目標につながる事業になっているのか、事業を始めた後もその目標に近づいているかどうか評価することで、自社の事業の意義を確認することが出来ます。
もちろん、目標を達成することが目的になってはいけませんので、事業を通じて社会課題は解決しているかについては定期的に確認していきましょう。
ビジネスとして持続性・事業性を担保するための利益を上げる仕組み
SDGsビジネスが失敗する多くの原因は、「ビジネスとして持続性・事業性を担保するための利益を上げる仕組み」が無いことです。
8つのモデルをざっと見て頂くと分かるのですが、多くのモデルは課題を持っている人から直接収入を得ることがありません。オレンジ色の矢印がお金の流れですが、ほとんどは課題とは別の消費者からお金が流れていることが分かります。
一般的には、困っている人に商品やサービスを提供し、購入してもらうことでその人の悩みが解決したり、ニーズが満たされるというモデルです。しかし、多くのケースでは直接困っている人からお金が取れない状況だったり、当事者でも環境問題など大きな規模の課題を解決するビジネスという状況です。冒頭にSDGsの意識調査についてご紹介しましたが、SDGsを意識した消費経験はまだ3割に留まります。
ビジネスとして持続性・事業性を担保するための利益をあげる仕組みづくりとして、最低限実施して頂きたいのは、マーケティング調査を行い、ターゲットや事業コンセプトを決めることです。
例えば、ビジネスレザーファクトリーはバングラデシュの貧困層の人々を雇用し、革製品を日本で販売しているブランドです。革製品はご存じのように競合が激しい市場のため、彼らは市場調査を緻密に行って「ビジネスパーソン向けの本革ブランド」というポジションを取って成功しています。お店に行くと高級感があり接客も丁寧だけど、商品の価格はお手頃、という感じです。
でもどうやれば良いの?思われた方は、マーケティングに関する事業コンセプトの作り方について下の記事に紹介してありますので、ご参考下さい。
SDGsを企業が事業として取り組む場合は、課題を解決しつつ利益を出す必要があります。そこが難しいところではありますが、成功している企業もありますので、そのような事例から学びながら自社の事業に取り入れて頂きたいと思っております。