起業や副業をしようと思って会社を作ろうと思った際に、設立の費用はできるだけ抑えたいものです。
株式会社設立の際に申請手続きで必要な費用は、資本金にもよりますが約24万円ほどと言われています。
このうち、会社の定款を紙で作成した場合、印紙税法により収入印紙が4万円かかります。その定款をPDFファイルで作成し申請すると(電子認証)、その収入印紙が0円となり、4万円の節約になります。
このPDFファイルのことを電子定款といいますが、この電子定款についてネットで調べてみると、「電子定款を自分でしようとすると、収入印紙の金額と同等の費用がかる場合があります」とあります。しかし実際は、4万円もかかりません。
よく会社設立の手続きを代行する会社のページにあるのですが、電子定款で申請しようとすると、必要な機器等を買えそろえる必要があり、それらが収入印紙代に相当する場合がありますとの記載があります。
それは、「我々のサービスはそれより安く電子定款を申請できますよ」というセールストークです。
筆者は定款の電子認証を自分で行いましたが、実際にかかった費用は、1,699円でした。
ここでは、会社設立の手続きをする際に、自分で定款の電子申請を行い、約4万円の節約する方法をご紹介します。
定款の電子認証の手続きの流れ
まずは手続きの大まかな流れをご紹介します。
準備としては、まずは①定款を作成します。
作成した後は②事前に公証役場に確認してもらう必要があります。確認せずに申請し、定款の修正が必要な場合は余計な手間がかかるので、事前の確認は必要となってきます。
その次のステップとして、定款を申請するのですが、WORDか他の文書ソフトで作成した定款をPDF化し、③電子署名をする必要があります。
この電子署名のために、ICカードリーダーとAdobe Acrobatというソフトが必要になっており、それに料金が発生することになります。
電子署名というと、デジタルペンで機器に自分の名前を書くようなイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、特にデジタルペンなどは必要ありません。Adobe Acrobatを使って署名を行います。
その電子定款を、法務局が無料で提供しているソフトをダウンロードし、それを使って④定款を送付する、という流れになります。
次の項目から、詳しい手順をご説明します。
電子認証の事前準備
事前準備として必要な内容は下記の5つになります。
定款の作成
- 会社名
- 事業目的
- 本店所在地
- 事業年度(設立月)
- 設立時の株価、株式発行数
- 資本金の額
- 設立時の代表取締役
- 設立時の発起人
先ほどのサイトでこれらの情報を入力すると、入力された情報が入った定款がダウンロードできます。この内容を一度読んでみて、違うところがあれば修正すれば完成です。
といっても条文が並んでいるので、読みなれていない方のために確認ポイントをご紹介します。
〇 本店の所在地(第3条)
こちらは入力したデータが反映されています。
ただ、定款には所在地の詳細は記載する必要がなく、例えば「東京都渋谷区」だけでも構いません。渋谷区までの記載だと、本店を同じ渋谷区内に転居した際には定款変更の手続きは不要になるので、詳細までは書かなくても良いかと思います。
〇 公告の方法(第4条)
公告とは、決算内容などを公表することで、その方法を決めたものです。
官報(国が発行する新聞のようなもの)に掲載するなら、「官報に掲載する方法」で、自社のホームページに記載する予定なら「電子公告の方法」に修正します。
「ただし、事故その他やむを得ない事由によって電子公告の方法による公告をすることができない場合は、官報に掲載する方法により行う。」という文言も追記して良いかと思います。
〇 署名の方法
条文の最後に「以上、〇〇株式会社を設立するため、発起人 〇〇は、電磁的記録である本定款を作成し、」とあるので、その後を「電子署名をする」に修正します。
ダウンロードした定款を読んでも自分が希望している内容が反映されているか分からなかったり、内容を理解しているか不安な場合は、行政書士さんに確認を依頼した方が良いかもしれません。
公証役場に確認してもらう(無料)
定款の案が作成できたら、会社の住所がある地域の公証役場へ電話、もしくはメールで確認の依頼をしましょう。もちろん、無料で確認してくれます。
公証役場には公証人という方がいらっしゃって、定款の修正点は丁寧に確認してもらえます。
ICカードリーダー(有料)
ICカードリーダーは、マイナンバーカードの情報を、定款を電子申請するパソコンに取り込む際に使います。
従って、前提としてマイナンバーカードがないと定款の電子認証が出来ませんのでご注意下さい。また、マイナンバーカードを作る時に設定した6桁以上のパスワードも必要です。(4桁ではない方)忘れた方は近くの役所までお問合せ下さい。
「ICカードリーダー」「マイナンバーカード」で検索すれば、カードリーダーがいくらでも出てきます。留意点は「マイナンバー対応」している機器を選ぶことです。
筆者は1,699円で購入し、定款の電子認証にかかる費用はこれだけだったのですが、安くて1,000円以下の機器もあるようです。
確定申告でeTaxを使おうと思っている方は、その際にも使えますし、4万円に比べたら安い買い物なのではないかと思います。
Adobe Acrobat(有料だが無料の場合あり)
電子署名を行うには、Adobe Acrobatというソフトが必要です。
2022年11月時点で、Acrobat StandardとAcrobat Proの2種類あり、両方とも電子署名が使えます。このタイミングではProの方が無料(一週間のみ)で試すことができるようになっています。
このようなサービスを使えば無料期間で電子署名をし、無料期間が終わる前に解約をすれば0円で電子署名が可能です。
無料のお試し期間が無くても、Standardの方は月1,518円ですので、電子署名で使ってみて、その後は使用しないのであれば解約できますので、費用は抑えられます。
なお、購入する場合は商品の内容をよく確かめてから購入して下さい。
ここで一つ注意点があります。ダウンロードした後にAdobe Acrobatを開き、左上を確認して下さい。
↓ 赤丸のところが、[32-bit]であることを確認して下さい。[64-bit]のバージョンではマイナンバーを使って電子署名できませんのでご注意下さい。
もし64-bitが表示されたら、一度アンインストールしたのち、32-bitをダウンロードして下さい。32-bitのバージョンをダウンロードするにはこちらかAdobeに問い合わせ下さい。
また、似たものとして、Adobe Acrobat Readerという無料のソフトもありますが、これは電子署名はできませんのでご注意下さい。
PDF署名プラグイン(無料)
Adobe Acrobatだけでは定款の電子認証はできません。ICカード(マイナンバーカード)との接続が必要だからです。それに必要なものは、PDF署名プラグインが必要です。これは登記・供託オンライン申請システムからダウンロードできます。
↓ 画面の上部です。
↓ 画面を少し下に行くと、「PDF署名プラグインのダウンロード」がありますので、PDF署名プラグインの赤枠のダウンロードからダウンロードして下さい。
その下に、操作説明書をダウンロードできますので、必要があれば使用下さい。
留意点としては、まずAdobe Acrobatをダウンロードした後に、PDF署名プラグインをダウンロードして下さい。逆にすると署名プラグインが使えませんので注意して下さい。
ここまで準備が出来れば、次から申請の仕方をご紹介します。
電子認証の仕方
確認済みの定款をPDFに変換する
WORDファイルで定款を作成したとします。↓ の画像の左上の赤丸にある[ファイル]から[コピーを保存]を選択し、[ファイルの種類]を[PDF]にして保存します。
電子定款に署名を行う
次に、作成したPDFファイルを開きます。
↓ のように[編集]→[環境設定]→「一般」を選択
↓ [署名]の[デジタル署名][作成と表示方法]の[詳細]
↓ [デフォルトの署名]を[singlePDF]にして、[OK]
※ここでsinglePDFが表示されない方は、Adobe Acrobatのバージョンが32-bitであるか確認下さい。詳しくは2.4 Adobe Acrobat参照。
↓ 次はまた定款のPDFファイルに戻り、[編集]→[環境設定]で、今度は[SinglePDF]
↓ [公的個人認証ICカード(個人カード)]にチエックを入れ[OK]
↓ ここで、ICカードリーダーをパソコンに接続し、マイナンバーカードを挿入します。
↓ また定款のPDFファイルに戻ります。今度は、[ツール]→[証明書]
↓ 定款のPDFファイルに移動し、[デジタル署名]を選択します。
↓ 署名したい箇所で、四角形の図形を作るようにドラッグします。
↓ 電子証明を行いますか、に[はい]
↓ パスワードはマイナンバーで登録した6桁以上のパスワード→[OK]
↓ この製品では、検証はできません、と出ますが、無視してOKで大丈夫です。
↓ 署名が完了しました!
署名が出来ない場合は問い合わせをする
少し手続きから脱線しますが、このような手順があっても、その通りに行かない場合があります。筆者はAdobeをインストールしても、そもそもSinglePDFが表示されず途方に暮れました。
検索して解決策を探すのも有効ですが、筆者は直接Adobeに問い合わせました。最近は会社のホームページの問い合わせのところに、電話番号がないケースが多いです。ひたすら良くある質問を読まされるサイトもありますが、今はチャットボックスのようなもので質問できるサイトもあります。そこで解決できないこともあるので、その際にはフリーダイヤルなどを案内されます。
今回は、SinglePDFが表示されないので、Adobeにチャットボックスで質問しましたが解決できませんでした。ですので教えてもらったフリーダイヤルに電話したところ、遠隔操作で解決してもらいました。
そんな面倒なことをしないといけないの?とお思いかと思いますが、このような手間をかける人を減らしたいと思ってこの記事を書いています。起業手続きについて記載しているサイトはほとんどがこの電子署名について詳しく書いておらず(自分の会社に依頼して欲しいので)、書いている場合でもAdobe Acrobatの32-bitしか使えないことに触れられているサイトはほとんどありません。
何か手順がうまく進まない場合、Adobeのソフトで問題ある場合はAdobeへ、これからお話する申請用総合ソフトで上手くいかない点は申請用総合ソフトの問い合わせへご連絡してみてください。申請用総合ソフトは直接電話もできるし、メールも対応しているようです。
申請用総合ソフトをインストールする(無料)
それでは次に、事前準備でPDF署名プラグインをダウンロードした登記ねっとのサイトから、↓ の申請用総合ソフトをダウンロードします。
手順で分からない点がありましたら、同じサイトに手順書もダウンロードできますのでご確認下さい。
電子定款を送信する
インストールしたらソフトを開き、↓[申請書の作成を行う]を選択します。
↓ 作成する申請様式を選択してくださいとあるので、一番下の[電子公証]の[+]を押すと[―]になり、そこから[電磁的記録の認証の嘱託【署名要】]をクリックし、[選択]
↓ 電磁的記録の認証の嘱託ページが開きますので、各項目を入力します。最後の公証人氏名のところですが、まず[法務局名]から本店所在地が管轄している法務局を選択し、[決定]した後でないと、公証役場名が表示されませんので、注意して下さい。
↓ ここは分かりにくいですが、[電子公証]という赤丸の部分のタブを押したら、自分が作成した内容が表示されます。ここを押さないと不動産のタブの情報が表示されるため、何も表示されない状態になりますので注意して下さい。
↓ まず定款を添付します。作成したい行のどこかをクリックして、添付したい行を青くします。その後に[ファイル添付]を選択します。
↓ [ファイル追加]を選択します。
↓ 電子署名をした定款のファイルを選択し、正しく選択されたのを確認してから[保存]
↓行の左の[情報]に、クリップのマークが表示されたら、きちんと添付されていることになります。そして最後に[署名付与]を選択します。
↓ ここでは、まずICカードリーダーがパソコンと接続されていて、マイナンバーが読み取られている状態にして下さい。その後、[ICカードで署名]を選択すると、マイナンバーカードの情報が読み取られます。
↓ 先ほども入力した、マイナンバーカードの6桁以上のパスワードを入力し、[確定]
↓ [情報]のところに、『署』という字が赤字で四角い線で囲まれて表示されたらOKです。最後に[申請データを送信]を選択します。
↓ [送信対象]にチェックを入れ[送信]して完了です。
お疲れさまでした!!
その後の手続き
申請は電子で行えるのですが、申請した後は定款承認手続きのため公証役場に行く必要があります。定款認証手続は、発起人が、公証人の面前で、定款末尾の発起人の署名又は記名押印(電子署名を含みます。)が、確かに自分の意思で署名又は記名押印したことを宣言し、これを公証人が確認することを言います。
そのために、送信した後に公証役場に連絡し手続きの予約を取る、という流れになります。完全に電子化できないのが今の日本っぽいとこでしょうか。オンラインと郵送などでもできるそうですが、手間がかかるらしく推奨されてないようです。
さらに起業時の費用を抑える方法
以上が定款の電子認証を自分で行い約4万円を節約する方法でしたが、もう一つ、費用を抑える方法があります。
会社を設立する場合、登録免許税として資本金額の0.7%(最低税額15万円)を支払う必要があります。しかし、行政が指定をした研修を受けると、0.35%(最低額7.5万円)となり、7.5万円の節約になります。
こちらについては、下の記事で詳しくご紹介しています。